「お金、拾っちゃった。このあと、どうすればいいんだ!?」
ATMで、前の人がお金を取り忘れた。自動販売機のお釣りが多すぎた。道にお札が落ちていた。そんなふうに、何かの拍子にお金を拾ってしまった、というあなた。
交番に届ける?こっそり自分の物にする?それとも、見なかったことにして元に戻す?
さまざまな選択肢が頭のなかを渦巻いているのではないでしょうか。今回は、お金を拾ったときに「これだけは絶対に知っておくべき」3種の心得と1種の知識、あわせて4つの覚え書きをお伝えします。
【心得1】大前提として、「拾ったお金や物は届ける」が基本
落とし物を見つけたとき……特にそれが「現金」だったりしたら、「ネコババしちゃおうかな」と頭によぎるのも人情というもの。
ネコが自分のババ(方言で“うんち”のこと)をこっそり砂で隠して知らないフリをする様子から転じて、拾った物をこっそり懐に入れ、自分の物にしてしまう行為を「ネコババ」と呼びます。
ですが、どんなに可愛らしくおどけた表現をしたとしても、ネコババは立派な犯罪です。見つかれば罪に問われるし、もちろん警察が動きます。
『お金を拾ったとき、どうすればいいのか。』
その答えは大前提として、警察に届けることである、という点は絶対に理解しておきましょう。
ネコババではなく遺失物横領罪
お金に限らず、物を拾ったときは24時間以内に拾った施設に届ける、または路上で拾った場合は1週間以内に警察に届けなければなりません。
もし悪心が起きて自分の物にしてしまったら、そしてそれがバレたら……そのときは、「遺失物横領罪」という罪に問われます。
刑法254条には、遺失物横領を行った者は「1年以下の懲役、もしくは10万円以内の罰金」が科せられる、と定められているのです。出来心で負うには、あまりにも重過ぎる罰と言えるでしょう。
「小額」でも、「忘れていた」でも言い逃れできない
「あとで届けようと思って、忘れていたんです。」
「10円くらいなら、大丈夫だと思って……。」
悲しいことですが、そんな言い訳は警察には通用しません。
コンビニで、店員さんから誤ってお釣りを多く渡されてしまった。すぐに店員さんに返してください。自販機にお釣りの取り忘れがあった。施設か自販機の事業者に連絡してください。落とし物を拾って、バッグに入れて忘れていた。施設で24時間、路上で1週間の届出期間を過ぎたら、犯罪となります。
軽く考えている方もいると思いますが、法律は法律です。たしかに事情によって量刑が変わることもありますが、それでも罪に問われてしまうことは避けたほうが無難でしょう。
- 駅やお店で拾ったら、24時間以内に施設に届ける。
- 路上で拾ったら、1週間以内に警察に届ける。
- 期間を過ぎると「遺失物横領罪」に問われる可能性がある。
- 「届けようと思って忘れていた」は、通用しない。
【心得2】得できる可能性もあるので、届けるのは損ではない
よく「お金の落とし主から、お礼として金額の1割をもらえる」といった話を聞かないでしょうか。
この「お礼」は「報労金」と呼ばれ、法律にも落とし物を届けた人の正当な権利として明記されています。加えて、しばらく待っても落とし主が現れなかった場合、その落とし物は届けた人の物として取得することが可能です。
また、少なくとも落とし物をしてしまった人は困っているはずです。人助けのためだと思って届けておけば、そのついでに得できる可能性もあります。
罪悪感をもったり警察を恐れたりしなくて良いので、「最終的には届けたほうがお得」なのではないでしょうか。
報労金は5%~20%、交通費などの諸費用ももらえる
「1割のお礼がもらえる」という話が一人歩きしてしまっていますが、法律が定めるところによると、実は報労金は拾った金額の5%~20%と言われています。
落とし主と拾った人の間で、話し合いによってこの割合の中で決められることになっています。
なお、報労金が欲しいということを警察から落とし主に伝えてもらうことはできますが、警察が報労金の話し合いに介入することはありません。落とし主が見つかって報労金を請求する際には、お互いに納得できる落とし所を探る、という仕事が待っています。
おそらく「1割のお礼」という話は、報労金の落とし所として「5%~20%のだいたい真ん中」ということで定着したのではないでしょうか。たしかに、10%程度であれば、少なすぎないため拾った人も納得できるし、多すぎないため落とし主も納得できそうな金額です。
また「交番に届けるため電車で移動した」などの場合、報労金とは別に落とし物を届けるのにかかった費用を請求できる、ということも覚えておきましょう。
物の場合ももらえる可能性あり
報労金は、拾った物がお金でない場合ももらえる可能性があります。
例えば、定期券や交通ICカード。金銭的価値やチャージ金額に応じて「現金の場合はいくらか」という試算が行われ、それに対する5%~20%の報労金をお願いできます。
ただし、クレジットカードのように「それそのものに価値がない物」の場合、報労金がもらえないこともあります。該当物の価値に応じて報労金がもらえる可能性があるため、「まず届ける。その後、とりあえず報労金について聞いてみる」という姿勢でもよいかもしれません。
3ヶ月待って落とし主が現れなければ自分の物にできる
拾ったお金や物に対して、落とし主が現れないまま3ヶ月が経過した時点で、その物を届けた人が自分の物にできる権利を得ます。
過去には、「1億円を拾って届け、その後落とし主が現れなかったため拾った人の物になった」という大変幸運な例も存在しました。何億円という規模はあまり多く見かけませんが、ゴミ拾いをしていたら古いタンスから何百万円か出てきた、といった例は定期的にニュースとなります。
その場合も、落とし主が現れなければ届けた人の物になっているのです。
ただし、お金を取得した場合は「税金」がかかってしまうことに注意。「所得と同じ扱い」と見なされるので、最大で45%の「所得税」を納める必要があります。
前述の1億円を自分の物にしたという方は、「所得税」として3000万円以上を支払った、ということでした。
どちらの場合も「自分から」動かないといけない
「権利」は「行使」しなければなりません。
報奨金も、もらう「権利」を得るだけ。落とし主が現れない場合も、取得する「権利」を得るだけです。黙っていると権利は失われてしまいます。
報奨金の場合は、落とし主が見つかってから1ヵ月後で「報奨金の権利」は消滅。落とし物の落とし主が現れず3ヶ月経過したあと、「自分の物にします」と申し出ないと、さらに2ヶ月経過後に落とし物は該当する自治体の物になってしまいます。
いずれの場合も、自分から動くしかありません。特に報奨金は、落とし主側から「お礼を払います」と言ってもらえることは稀なので、ぜひ積極的に自分から申し出ましょう。
「欲深いと思われないかな」などという心配は不要です。あなたのおかげで、落とし主は奇跡的に落とし物に出会えたのです。法律にも示されている当然の権利として報奨金をもらって、「落とし物が見つかった幸せ」をお互いに分かち合いましょう。
【心得3】善意で、「拾って届ける」だけも可能
報奨金をもらう場合や、3ヵ月後に自分の物にするという場合、残念ながら面倒な手続きがいくつもあります。
まず落とし物を届けた時点で、「落とし物に動きがあったことを伝えてもらう」ために連絡先や住所を書かなければなりません。
その後、正当な報奨金であることや、正当に落とし物を自分の物として取得することを示すために、いくつもの書類を書く必要があります。
かつては落とし主が現れなかった場合、拾った人の物になるのは6ヵ月後だったそうです。それが今では、3ヵ月後に短縮しています。このように少しずつ煩雑さはなくなっているものの、未だに「お役所仕事」であることは否めません。
「面倒だけど拾ってしまった。」
そんな場合に覚えておきたいのが、権利は手放せるということ。報奨金の権利のみ、あるいは3ヵ月後に自分の物にする権利のみ、または両方とも。
遺失物を扱う法律のなかに「権利の一部または全部を放棄できる」と明記されています。
落とし物をしてしまった人を、ただ、善意で助けるだけ。そうなったとしても、煩雑さから開放され、誰かを幸せにできるなら悪くないかもしれません。
【知識】小額の場合、拾わない、という選択肢
あまり褒められたことではありませんが、「路上に落ちている10円や100円」の場合、拾わないという手もあります。
なぜなら前述したとおり、落とし物を届けると手続きが大変煩雑です。にも関わらず、たとえ小額でもネコババしてしまうと、それは遺失物横領罪。
実は、落とし物を拾うのは、義務ではありません。
1万円以上ならまだしも、数百円単位の場合、落とした当人ですら気づいていない可能性もあります。煩雑な手続きか、罪の意識か。そんな2択を迫られるくらいなら、いっそ見なかったことにして拾わない。
褒められたことではない、という注釈は入りますが、最後の手段として覚えておくのもいいでしょう。
まとめ
今回は、お金を拾ったときの対処法をお伝えしました。
- 基本的には、絶対に届けること!
- 届けることは損ではない。
- 権利を放棄して「善意の人」にもなれる。
- 小額なら見て見ぬフリ、も……。
以上の4点を覚えておけば、いざというときにも焦らず、冷静に対処できるはず。
もっとも危険なのが、気が動転して出来心が生まれたり、重要性を認識せずに拾ったことを忘れてしまい、結果的に罪に問われてしまうこと。
そんなくだらないミスで人生を棒に振らないよう、定期的にこの4項目は確認しておきましょう。